「最近、近所に新しい施術所が増えた気がする」
「いやいや、あの角にあった院は畳んでしまったらしいぞ」
日々現場でお越しいただく方々と向き合いながら、このような肌感覚を覚えたことはないでしょうか。
コロナ禍が過ぎ去り世の中が新しい日常を取り戻した今、私たちの業界もまた静かながら決定的な変化を起こしています。
今回は公的な統計データという客観的な指標をもとに、業界のリアルな「現在地」を分析してみましょう。
これからの時代を生き抜くための実践的な視点を交えてお届けします。
【店舗数のリアル】地道に伸びる鍼灸院と、急ブレーキがかかった整骨院
厚生労働省がまとめた施術所数の推移データを開いてみると、そこには東洋医学・手技療法業界における対照的な傾向が描かれています。
【鍼灸院】毎年1,000院ペースで着実に増加
鍼灸院(はり・きゅう施術所)は、コロナ前もコロナ後も変わらず年間1,000院以上のペースで増え続けています。
「健康維持」や「心身のコンディショニング」といった世の中の意識の高まりを背景に着実に拠点を広げている様子が伺えます。
【整骨院】かつての勢いから一転、急激なペースダウン
一方の整骨院(柔道整復師施術所)は、かつて年間1,500院以上という勢いで増えていました。
しかしコロナ後は一変して年間150院程度の微増へとシフト。
増加率が従来の約10分の1に減少するという予想以上の急ブレーキがかかりました。
整骨院の伸び率低下に隠された背景
整骨院の増加ペースがここまで急激に落ち込んだ背景には、以下の2つの要因が考えられます。
●新規開設の慎重化
➡感染症のリスクや顧客の行動変化を警戒し、出店を踏みとどまったケース。
●競合激化による閉院
➡出店自体はあるものの、競争過熱や経営環境の変化によって閉院せざるを得なかったケース。
整骨院市場は従来の量的拡大期を終え、「いよいよ市場が飽和状態へと移行した」と見て間違いなさそうです。
【有資格者数の動向】『資格取得』のペースダウン
店舗の数だけでなく、そこに立つ有資格者の動きはどう変化しているのでしょうか。
厚生労働省の資格者推移データを紐解くと、時代の移り変わりが見えてきます。
《鍼灸師の登録者数》ゆっくりと増加ペースが鈍化
鍼灸師(はり師・きゅう師)の年間増加数は、実は年々マイルドになっています。
平成26年度 ~ 平成28年度 +7,470人
平成28年度 ~ 平成30年度 +5,750人
平成30年度 ~ 令和2年度 +5,041人
純増数の数字が少しずつ小さくなっており資格取得の純増ペースが落ち着いてきたことを示しています。
《柔道整復師の登録者数》10年前の水準へ移行
柔道整復師の変化はさらに顕著です。
平成30年度までは高い増加傾向を記録していましたが令和2年度にかけての増加数は2,768人増にとどまりました。
これは10年以上前の増加ペースに戻った計算になります。
業界全体として資格取得者の純増スピードが落ち着いた時期へ移行したと言えるでしょう。
【市場規模の分析】国内は安定横ばい、世界は拡大傾向
「最近、業界の景気はどうなの?」という疑問に対しては、視点を「日本国内」に置くか「世界」に置くかで答えが異なります。
《国内市場》およそ1兆円でどっしり安定
株式会社矢野経済研究所の調査によると国内の鍼灸・マッサージ関連市場規模は前年比5.3%増の9,680億円。
過去のデータを振り返っても常に1兆円前後で推移しています。
これは決して縮小しているわけではなく「手技や鍼灸に対する国内需要は根強く存在している」という証拠でもあります。
《海外市場》グローバルな「Acupuncture(鍼灸)」市場の拡大
ところが、世界に目を向けると話は変わります。
Persistence Market Researchの試算によると世界の鍼灸市場は2030年までに1,510億ドル(日本円で約20兆円規模)を超える市場へ成長すると予測されています。
薬に頼らないナチュラルなヘルスケアや予防ケアとして東洋医学が世界中で高く評価されているのです。
【これからの業界展望】施術者が押さえておくべき『3つの視点』
これらの統計データを総合的に見ると私たち施術者の前にはどのような変化が待っているのでしょうか。
次の3つの波は着実にやってきます。
① 人材獲得合戦と採用コストの課題
店舗数は一定ペースで増えるのに、新たに生まれる有資格者のペースは落ち着いている…となれば起きるのは「優秀な人材の獲得競争」です。
今後は人手を確保するための採用コストや求人対応が経営上の重要なテーマになってくるでしょう。
② 「技術力+経営力」が試される二極化時代
整骨院の飽和が物語るように単に開設すれば自然と来院者が集まる時代は終わりを告げました。
今後は職人としての優れた技術に加えWeb発信や来院者との信頼関係づくり、適切な院経営の知見を備えた施術所が選ばれる「二極化」が進みます。
③ インバウンド需要という新たな機会
世界の鍼灸人気の高まりは日本の施術所にとってもチャンスです。
「本場・日本の高品質な施術を受けたい」という訪日外国人(インバウンド)向けのメニューや発信は、独自の強み(差別化)になり得ます。
技術の研鑽と適切な情報発信をあわせて
数字ばかりを追っていくと「競争が激しくなるのか」「資格者の増加が鈍化しているのか」と不安になるかもしれません。
しかし、現場で日々施術をされている皆様なら、きっとお分かりのはずです。
日常の中で首や腰に辛さを抱え身体のケアを求めている方は街の中にまだまだ多くいらっしゃいます。
実際、企業調査では「働く人の8割以上が勤務中に何かしらの身体の不調を抱えている」というアンケート結果も出ています。
つまり「身体をケアしてほしいけれど、まだ自分に合った院に出会えていない潜在的な利用者様」は数多くいらっしゃるのです。
私たち一人ひとりが技術や知識を磨き続けることはもちろん大切ですが、これからの時代は自分たちの施術の価値や魅力を地域へしっかり届けていく広報・経営の視点を持つこと。
それこそが、変化の時代を力強く歩んでいく鍵となります。
千葉県鍼灸マッサージ協同組合では、法改正や手続きのサポートはもちろん、技術研鑽や院経営に役立つ講習会まで会員の皆様が安心して事業に取り組める環境づくりを全力でサポートしてまいります。
【出典・参考データ】
厚生労働省「衛生行政報告例」(hone-u.com 経由)
株式会社矢野経済研究所「鍼灸・マッサージ関連市場調査」
Persistence Market Research「Acupuncture Market Forecast」
